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1…69 #5 雪・月・花 (~From.Sweet Drops~ 葉月様)

『69』


すぐに戻ってみたら部屋はもぬけの殻。

初めて血の気が引く音を聴いた気がした。

でも、すぐさま背後から聞こえてきた音に振り返れば、素知らぬ顔でチャンミンが立っていた。

その時の安堵と言ったらない。

よかった、って。

置いてかれたんじゃなかった、って。

不安をそのまま言ったら、置いてったのはお前だって責められてまたヘコんだ。

こんなはずじゃなかったのに…。

でも、仕方ないよな。

連絡も来なかったし、連絡もしなかった。

出発は決まっていたのに言い出せず、結局寸前になって告白。

そりゃ怒るよ。

オレがチャンミンの立場だったら、って考えれば。

だから、オレが怒るのは筋違い。

でも、落ち込むのはどうしようもない。

もしかして嫌われてるかも…なんて。

たぶんないとは思うけど。

黙々と仕事をこなすチャンミンをちらりと見つめ、買ってもらったカフェオレを1口。

おとなしく待ってろって言われたけど、ものすごく手持無沙汰。

「チャンミン」

「なんですか?」

「なんか、手伝おうか?」

よくよく考えたら、おとなしく待っている必要はないんじゃないかな…。

一応、オレのほうが社会人として先輩だし。

2年間がっつりアメリカで仕事覚えてきたし。

パソコンへと向かっていた瞳が、オレへと注がれる。

「できるんですか?」

「お前なぁ…」

なんのためにオレがアメリカに行ってたかわかってるクセにそんなことを言う。

まさか遊んでたとか思ってるんじゃないだろうな?

こっちは早く帰るためにろくに休みも取らず仕事に精を出してきたのに。

「じゃあ…これ」

差し出されたのはノートパソコンと分厚い資料。

いったいなんだ?

「ファイルは共有内の売り上げ管理に入ってます。店舗毎にまとまっているはずなので、数字が合っているか確認してください」

「…」

たぶん、1か月分。

そしておそらく100店舗以上。

これを全部確認しろって?

いい度胸だ。

やってやろうじゃないか。

ちょっとケンカ売られている気分。

もしくは、試されているような。

でも、入力チェックに個人的スキルはあまり関係ないように思える。

ほぼ雑用だ。

っていうかチャンミンは毎月これをやってんのか?

マメっていうか、細かいっていうか…。

しかも中には棚卸の明細まで綴られている。

つまり、横領対策か?

なかなか大変な仕事を預かっているみたいだ。

ん…?

大学生なのにおかしくないか?

バイト、って言ったよな?

何気なくチャンミンを見やれば、真剣な顔。

久しぶりに見る姿にちょっと胸が高鳴る。

見惚れている場合じゃない。

とにかく終わらせよう。

仕事が終わらないことにはふたりでゆっくりもできないし。

気持ちを切り替え、仕事モード。

静かな室内にキーボードを叩く音と紙をめくる音だけが響き渡る。

「ユノ、終わりそうですか?」

「ん。あと1店舗。チャンミンは?」

「終わりました」

ホントに終わったみたいで、すっかり冷めてしまったコーヒーを片手に歩み寄ってくる。

ちらりとその姿を見やり、最後の数字を確認した。

「数字違ってるヤツは付箋つけといた」

「ありがとうございます」

「これ、毎月やってんのか?」

「とりあえずは。細かくチェックしていることをわからせないとバカなことをする人間が出てきますから」

まぁ、確かに。

理には適っているかもしれない。

あまり効率のいい方法ではないような気がするが。

「でも、いまはサンプル的に10店舗くらい毎月やっているだけですよ」

「え…?」

いま、オレ134店舗分やったけど?

まさか…。

ふと浮かんだ言葉。

確かめるようにチャンミンを見やれば薄い笑い。

やっぱりだ。

コイツ、オレのこと試しやがった。

「お前なぁ…っ」

「ヒマ潰しにはなったでしょ?」

「そのためだけにこんな面倒くさいことやらせたのか!?」

「たまには全店チェックも必要ですから」

意図は理解できるが、騙されたようで面白くない。

けれど、いくら睨んでみたところで笑みは崩れず、それどころか幼い笑顔に変わっていく。

そんな顔されたんじゃ怒るに怒れないじゃないか。

はぁっと心落ち着かせるように息を吐きだし、ぐしゃぐしゃと頭をかいて。

「ほら、帰りますよ?」

「…ん」

いろいろ思うところはあるけど、仕方がない。

いまはオレのほうが分が悪いし。

なにしろ、2年前のことがあるからな…。

「チャンミン」

「…?」

「いつからバイトしてんだ?」

「大学に入学すると同時に始めました」

つまり、オレと実務経験はほとんど差がないってことか?

もちろん、仕事漬けだったオレと、大学と仕事を両立してきたチャンミンとでは若干違うけれど。

なんでそこまで…?

って、考えるまでもないな。

絶対オレに負けたくなかったからだ。

「負けず嫌い」

「お互い様でしょう?」

そう言われてしまうと言い返すこともできない。

だって、その通りだから。

「ユノはいつまでお休みですか?」

「とりあえず、1週間休んでいいって言われてる」

こっちで家を探さなきゃいけないと思ってたから、多めにもらった休暇。

だがしかし、家はすでに用意されていた。

しかも高級マンション。

だから、あとは荷物が届いてしまえば引っ越しは完了。

あとで荷物の送り先を連絡しておかないとな。

「チャンミンは?」

「僕はいま、春休み中です」

「仕事は?」

「明日の分は片付けてきました」

とりあえず明日いっぱいは一緒にいられるってことでいいのかな…?

たぶん。

「メシは?」

「用意してあります」

「え?」

「慌てて用意したんで大したものはできませんでしたけど。なにしろ、帰国を知ったのが昨日だったんで」

またなんかチクチクされてる。

何度も連絡しようとは思ったんだ。

でも、なんて連絡していいかわからずにそのまま。

だからおじさんに伝言を託してしまった。

しかも、明日帰るなんてアバウトすぎる伝言。

よくよく考えたら、酷い話だよな…。

「ゴメン…」

「明後日はレストランを予約してあります。父さんも呼びましたから、好きなだけ話してください」

「オレはチャンミンと話したい」

「よく言いますよ。父さんの誘いにホイホイ乗ったくせに」

針のむしろだ。

しばらくはネチネチ言われそう…。

身から出たサビだから仕方ないけど。

「そんなこと言うなよ…。オレだって反省してんだから」

「ユノの反省はその場しのぎですからね。次同じようなことがあっても絶対忘れてます」

なんか、再会してから言い争ってばっかだ。

自分のせいとはいえ、落ち込みようが半端ない。

肩を落として俯いていると、不意に手を引かれた。

「ホントに反省してます?」

「…してる」

もう、これでもかっていうくらい。

反省っていうよりは、落ち込んでるって言ったほうが正しいかもだけど。

これからはおとなしくしてよう。

とりあえずチャンミンに相談して、確認してからにしよう。

情けないけど、オレにできる対処法はそれしかない。




















つづきはこちら→#6
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