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13…青くやわらかく、夜の底にしずむ。(いつもココロに太陽を 宮子様) 

今日は朝から眩しい晴天で、風がひときわ強く吹いていた。


めくっていた雑誌から顔を上げて、僕は自動ドアの向こうに見える通りを見やった。街路樹の葉が今にも吹き飛ばされそうに揺れている。
ピークを過ぎた桜の花がこの風で一気に散ってしまうかなと思いながら、腕時計を確認し、再び雑誌に目を落とす。


ユノの転役の日は穏やかに晴れて、桜の花びらがふわりふわり舞い落ちていて、ユノが戻ってくるのにぴったりの気候だった。


春うらら。
昔習った日本語を唐突に思いだす。


特級戦士なんて呼ばれてしまうほどに強くて男らしいユノだけど、普段は春みたいに優しくてほっこりしたヒョンだから。


近くでさざめくような声がしてわずかに顔を上げると、学生とおぼしき女の子たちがこちらを見てるのが視界に入る。
やっぱりカフェにでも入っとけばよかったかな。
ちょっとの時間だし本屋で立ち読みでも、と思ったけど意外にユノからの連絡に時間がかかっている。




2日前、ユノが無事に21ヶ月の服務を終えて転役した。


平日だったから僕は普通に広報団の勤務があったけれど、ユノを出迎える人たち、ファンや友だちや知り合いや、あとよくわからない大勢の人たちの熱狂ぶりが凄まじかったとネットのニュースで読んだ。


――休暇とって顔だけでも見にいけばいいのに。

シウォニヒョンが、ユノの転役の日が近くなっても特に何もしない様子の僕を見て言っていた。
もし僕が、たとえば彼のグループにいたら迷わずそうするんだろうな、と思う。



転役の日を意識するようになった頃、休暇を合わせて会ったときにユノが言ったんだ。


――オレが戻る日の週末、会える?


それは、転役の日には出迎えに来なくていいし、出迎えに行かないというお互いの意思確認だった。
ユノはそれ以外のことは何も言わなかったし、僕も彼に言われなければ僕から週末に会いたいと言うつもりだったから、それだけで十分だった。


これが僕らのスタイル。
あえて誰かに説明することもないし、何よりお互いがわかっていればいいことだと思ってる。



だけどもちろん人気者のユノだから、僕みたいに出迎えには行けなくてもユノに会いたい人は山のようにいる。


言われなくてもわかってたから、つい最近電話で話したときに、土日空けておくから時間が取れたら連絡して、と言ったらとたんにスマホの向こうの気配が変わった。


――なんでそんな、会えたら会おうみたいな感じなんだよ。絶対に、何が何でも会いたいって言ってよ。


めずらしく拗ねたみたいな声に、びっくりしてキョトンとしてしまった。
え、そう思ってるけど、と返すと、ぜんぜん伝わってないもん、となおもブーたれた声が聞こえてくる。


もんって何、可愛すぎるでしょ。
普段はヒョン風吹かせてるくせに、いきなりスイッチ切り替わるんだから、まったく気が抜けない。


もちろん一刻も早く、何が何でも会いたいと思ってるに決まってる。(ユノだってほんとはわかってる。)
だけどそこはそれ、相方としての余裕ってやつで。
今さらがっつくのもカッコ悪いとか思っちゃうわけですよ。


それでも恋人の立場としては、ユノがこんな風に甘えてくれるのはうれしくないはずがないっていうかぶっちゃけめちゃくちゃうれしいわけで。


――必ず空けておいて、俺のために。


やや冗談めかして言っても、耳が熱くなるのを感じる。
よし、と同じく笑いを含んだ声が返ってきた。





――――。


ジャケットのポケットに入れていたスマホが振動を伝えてくる。
ユノからのメッセージ。


『今終わった! これから向かう』


ごく短いメッセージにも心臓がわずかに跳ねるのを感じた。
僕は手にしていた雑誌を戻すと、足早に人混みをすり抜け、本屋をあとにした。







「ふあー、おいしかった! 幸せだった~~」


どさーっ、と。

ソフトクリーム片手にソファに背中を投げ出しながら、ユノが叫んでる。はは、わかりやすい。
心の底からうれしそうな声に、聞いてるこっちまで頬がゆるんじゃいますよね。


予約しておいた鉄板焼の店で夕食をとり、ユノの友だちがやってるカフェでコーヒーを飲んでから(ユノはもちろんアイスチョコ)、僕のマンションにタクシーで戻ってきたところ。



「今も幸せでしょ、アイスがあるんだから」


自分用にグラスにワインをついでリビングに戻り、僕はユノが左手に持っているソフトクリームを指さした。
これまたユノ的鉄板の、ストロベリーとチョコのミックス。

アイスチョコなんて甘いやつを飲んだ後によくソフトクリーム食えるなーと思うけれども、好みが変わらないままのユノをうれしく思ったりしてる。


「ウン、今も幸せー」
「なんか、ヒョンの幸せの素は食べ物オンリーみたいに聞こえますけど」


猫みたいに目を細くして返すユノの隣に座りながら、ちょっと意地悪を言ってみる。
顔を覗きこむと、ぱち、とユノが瞬きをした。
店で少しだけ飲んだワインのせいで目許がほんのりピンク色。


「何ゆってんだよ、チャンミナと一緒だからに決まってるじゃん」
「ほんとかなー」
「ほんとだよ、…オレ、転役してから早くおまえに会いたかったよ」


ことり、と。

右の肩にやわらかな重みがかかって。


「すごくすごく、会いたかった」


マシュマロみたいにふわんとした声が、触れている部分から甘い振動を伝えてくる。
僕も首を傾けて、ユノの頭に頬をかるく乗せた。
まだ短い髪がちくちくと当たって少しくすぐったい。


目許だけじゃなくて、唇も血色がよくなってて、熟れたみたいにぷるんと赤い。

……実はさっきからこの人、すごく美味しそう。
ここだけの話。



「――おかえり、ヒョン」
「ん……ただいま」
「転役と、その他いろいろおめでとう」
「あはは、すごいざっくり」
「個別に何度も言ってるしさ」
「何度言われたってうれしいけど」


くすくすくす。
ちいさく肩をふるわせて、ずっと笑ってるユノヒョンが可愛すぎて困る。

お酒が入ってるのもあるんだろうけど、今日は雰囲気が特にやわらかく感じられるのは、やっぱり大きな務めを果たし終えたっていう安心感があるのかな。




よりいっそう鮮やかな光を放つ瞳を手に入れて、文字通りモンスターになって戻ってきた。

だけど、特級の称号も名誉市民も、ユノがなし遂げたことのすべては、目的ではなくて結果だ。
ユノは、ただ自分がユノであることを証明しただけ。

それがどんなに大変な苦労をともなうのか、正しく想像することさえ難しい。



「だけど…だけどね、オレ、」


左の指で膝にのった僕の右手を弄びながら、ユノが呟く。


「いちばんうれしいのは、こうしておまえの許に戻ってこれたこと…」


そろ、と僕の指に絡まってきた長い指をとらえ、すべての指をしっかり絡ませる。もうどこにも行けないように。


「おまえが、何も変わらずこうしてオレのそばにいてくれること」


夢みるような声でささやき、ユノが僕を見上げた。
ただ僕だけに注がれる澄んだまなざしに、胸の奥が甘い痛みを伝えてくる。


白い花が咲くように、きれいに、この人は笑うんだ。
人知れず苦労したことなんてひとつもなかったみたいに。

優しくまるみを帯びた笑顔は、もうずっと昔から変わらない。



俺もだよ、ユノヒョン。
あなたがあなたのままでいてくれたことが、何よりもうれしい。



じわり、と、胸の奥底に水がわくような感覚。


顔を近づけて、ゆっくり唇を重ね合わせる。
甘い熱を含んだ唇は少しかさついていて、ひどく劣情を煽る。



「……、ン、」
「………、」


何度も触れ合わせるだけのキスをくり返して、吐息を混ぜ合わせる。
久しぶりの行為にお互い感じることは一緒で、指を絡めていた手はとっくにはずれて、僕の左手が性急にユノの背中を抱き寄せた。

イチゴの甘みとワインのアルコールが口の中で混ざり合って、とろりと僕の意識を溶かしていく。



「次は…おまえの番だね」


はふ、と息をつきながら、ユノがささやく。
湿った空気が白い頬をほのかに染め上げ、僕はたまらずキスをくり返す。
盛ったオスみたいに、頬からあご、耳たぶ、首筋、触れられるところすべて。


「……待ってて、あと少しだから。俺のこと…待っててください」

「うん…待ってる。これからは、ただひたすら、おまえのことを待っていられる」

遠足の前の日がずっと続くみたいだ。


そう言って、くすくす。
僕のキスに時折ひくんと反応を見せながら、また可愛い声をたてて笑ってる。


「暢気だなぁ。俺だってがんばってんですよー」
「わかってる…応援してるから。がんばれ、チャンミナ」


まあ、そうストレートに言われても照れるわけですけど。
何て返事しようか迷って、何も思いつかなくて、結局またユノの首筋に顔をうずめる僕。


ちゅ、ちゅ。
カーディガンを肩からずらして、シャツのボタンをひとつずつはずしながら、露わになるなめらかな肌に優しくキス。

ゆっくり体重をかけていけば、ユノの背中が少しずつソファに近くなっていく。


「ん、ン……、ベッド、行こう…?」
「……そこまで待てない」


何か言いたげな唇を、自分のそれでかみつくみたいに塞いだ。
僕を見上げる、光の反射率の高い瞳。
不安と少しの期待でせつなげに揺らめいてる。



どうしよう――僕。

この人のことがどうしようもなく好きだ。



どうしようもないのなら、……もう、溺れるしかない。



「――…すきだよ、…っ、チャンミナ……」



上がりはじめた息のあいだから、ユノの高めの声が洩れる。胸の突起を弄る僕の指に素直に快感を伝えながら。


ほら――そうやってあなたはいつも、僕の言葉を奪ってしまう。


だから僕は、触れる指で、見つめ返すまなざしで、肌をなぞる吐息で。
あなたがくれる言葉に応えるんだ。


ここにいるから、と。
もうどこにもいかないでね、と。



「――…ユノ……ユノ、」



光が――僕の手の中に戻ってきてくれた。

果てのない世界に迷いこんでしまったみたいな不安にかられて過ごす夜も、あなたが待っていてくれるなら、もう怖くない。

どんなに暗い闇も乗り越えていける、あなたが照らしてくれる明かりをたよりに。





それから僕らは、僕らにしか聞こえない愛の言葉をささやきながら。


ふたりで深い深い夜の底に沈んでいった。















<FIN>
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COMMENT

自然体な二人にトキメキます。

2017/04/07 (Fri) 08:29 | 723621mam #- | URL | 編集 | 返信

723621mamさまv
トキメいていただけてうれしいです~(*^^*)
読んでくださって&コメントくださってありがとうございましたvv

2017/04/07 (Fri) 23:25 | 宮子 #- | URL | 編集 | 返信

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/04/08 (Sat) 00:41 | # | | 編集 | 返信

素敵です。

二人やり取りとりが、すごく好きです。
ほこほこしました。

2017/04/08 (Sat) 23:11 | セキ #- | URL | 編集 | 返信

No title

か****さまv
読んでくださってありがとうございますvあのときの少しせつなくて美しいイメージと重ねていただけてうれしいです///
ほんとに、ユノさんが帰ってくる日は、ユノさんみたいにおだやかな晴れの日であったらいいなとわたしも思っています。
桜はとっくに散ってしまってると思いますが…w(笑)
温かいお言葉、ありがとうございました。

2017/04/09 (Sun) 01:12 | 宮子 #- | URL | 編集 | 返信

セキさまv
読んでくださってありがとうございますvv
わわ、好きと言っていただけてとてもうれしいです!
こんなところで恐縮ですが、セキさまのお話とても素敵でした…!
途中ドキドキしながら読み、ラストでほっこり幸せな気持ちにさせていただきました///
コメントいただきありがとうございました。

2017/04/09 (Sun) 01:19 | 宮子 #- | URL | 編集 | 返信

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2017/04/10 (Mon) 11:03 | # | | 編集 | 返信

あ*さまv

あ*さん~~!!早速に読んでくださってありがとうございますvvそんなそんな、全然遅れてなんかないですよぅ(T-T)人(T-T)
はわわわ、相変わらずの駄文にもったいないお言葉をたくさんありがとうございますっ///(戦慄)今回のお話は内容がなくて(いつもですが…!笑)、特に雰囲気重視でミンホちゃんが持っているふたりだけの雰囲気が伝わったらいいなと思って書きましたので、少しでも感じとっていただけたのでしたら何よりうれしいですvv

こんなところで恐縮ですが、あ*さんのミンホ小説めっちゃ面白かったですーー(泣)紳士なユノさんしゅてき~~////チャミのモノローグ最高です~!!けなげで一途でほんと胸キュン…!!チラホラ出てくるノリツッコミに爆笑しました(笑)そしてギュの扱いが一貫してぞんざいでめっちゃ笑いました(o_ _)ノ彡☆やっぱギュ様はこうでなきゃ…!(笑)

ふえん、わたしの方こそです~~!!!あ*様にお声がけいただいたおかげで、チカ*さんの夢のように素敵な企画に参加させていただけて、ほんとに幸せでした!一生の思い出になりました(ToT*)あらためて、ありがとうございました~vv

2017/04/12 (Wed) 11:55 | 宮子 #- | URL | 編集 | 返信

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