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5…Momo in the rye #1 (王ロバ2 teftef様)

練習場は10時からだが、事務局オフィスに早めに顔を出すと、総務のアカデミー担当のミニョンさんがスタジオのカードキーを貸してくれる。入り口で立っているといつもはあっちから声をかけてくれるのに、今日はバタバタしてて、みんな忙しそうで、電話もガンガン鳴ってて、ここに通い初めて一週間、はじめて見るくらい大人数がオフィスに詰めている。
昨日は遅くまで照明がついてたし、ハードに働いてる様子なのに、オフィスの女の子たちは小綺麗で、声がかけづらい。
「ちょっとどいて」と後ろからおっきなダンボールを抱えたスタッフに肩を押されて、すいません、って口の中でつぶやいて、振り返った男の人がああこいつか、って顔をして
「おーい、ミニョン、」って声を張り上げてビクッとする。
「ごめんごめん、」
熱心ね、なんてカード片手にでてきたミニョンさんもいつもよりピカピカしてる気がして笑ってくれるけど、俺は長めの前髪に隠れてスイマセン、となるべく体を小さくして呟いて後ろずさるようにして、今日は午後からは使えないと思うからと説明されてるのも半分くらい聞かないで逃げるようにスタジオに向かう。あんまり近づきたくない。今日は特に。




スターライトの練習生が使っていい練習場は、三つあって、横に本格的なレコーディングブースも付いてるのがCルーム。音楽制作の部門の授業のために使われて、ミキシングもできるし、俺がオペレーターいなくても触れることがわかると、壊すなよ、壊すと弁償だぞ、と言いながら、空いてれば、使わせてもらえるようになった。
角に柱があって、変形した形になってるし、狭いからあんまりレッスンでは使われなくて、鏡とにらめっこの自意識過剰な連中は来ない。俺みたいなイレギュラータイプが集まってくる。
俺みたいな、機材にしか興味がないような、タイプ。

昨日はユースホステル代けちって、明け方まで街をうろうろ、公園のベンチでうたた寝してたら警官に職質されてごまかして逃げて、ダンスのレッスンも出たのに風呂入れなかったから、臭いんじゃないかって気になるけど、だいたい音楽オタクしかここにはこないし、男ばっかりだし、まあいっか、って思ってる。
講義が全部休講になってるのはさっき、掲示板で見た。でも他にいく場所がないから、授業なくても、ここにいる。



家にはピアノしかなかった。
母親は曲を聞けば弾けるくらいにはピアノができて、音大通ってたらしいけど、若い恋人(俺と10歳も違わないやつら)にマダムっぽい、ってからかわれてから、ほとんど触らなくなったから、ほとんど俺の独占状態。サンプリングにはまって、リセになってからはもっぱら古いMacを先輩から借りてフリーアプリで曲を作った。
OSがアップグレード出来ないくらい古くなったパソコンを中を弄って使ってたけど、アップルは二年ごとに新機種買わないとだめな非道メーカーだから限界が来て、おふくろがブルジョアな年上の恋人と同棲しはじめて、遠く離れたアメリカの寄宿舎のある高校に行ってくれ、と頼まれたときは、そこに学生が自由に使える最新型のパソコンがあると聞いて2つ返事で了解した。

NYのその学校は似たようなやつらが一杯いて居心地がよかった。
毎週末ママとパパが学校に顔を見に来るやつもいたけど、そんなやつはクラスで大きい顔はしてなくて、地味なタイプ、俺は渡される小遣いを全部音源やパソコンに費やしてたから遊ぶ金なんかなかったけど、母親の恋人がパパと呼んでくれると嬉しいとか言ってくるのがうっとうしくて、それに比べればここは天国。
それで、羽を伸ばしすぎちまったのか、門限破りやら、成績悪すぎとか、問題行動多すぎていよいよ親を呼び出す、って話になって、入籍したてでテンションの高い義父や、すぐ泣き出すに違いない母親の顔を絶対見たくなかった俺は、母親の母国ではあるけど韓国の音楽なんてろくに知らないくせに、エスエムエンターテイメントのグローバルオーディションの一次合格の知らせを聞いた時点で、親のサイン偽造して、自主退学。奨学金もらってミュージシャンになれる学校に入ったと手紙を書いて、仁川行きのエア代だけねだった。

もちろん、口から出任せもいいとこ、どうなるのかわからない見切り発車状態だった。
ニューヨークでのオーディションは3次まであって、いっしょに応募した友達が親切で、いろいろ教えてくれたけど、いざ自分が落ちて、俺だけが3次に受かると学校でも避けられて、その友達が韓国語ぜんぜんわからないってわかると受からないかもと言ってたから韓国語の説明を選んでて、書類の内容がほとんどわからないまま会場にむかった。

さすがに自分の送ったmp4がプロの集団を唸らせてアメリカンドリームが始まるなんて、思ってた訳じゃなかった俺も、横一列に並んだスタッフが、俺が部屋に入った途端にどよめいて、え、まさか、とか、言ってる人もいたし、提出したプロファイルらしきプリントを見つめて固まってる人もいたし、なんなんだ?て感じだった。




「お前、過激派?」
「What?」
ジェウオンさんがぎょっとした顔で俺を見返す。
「Pardonだろ、」
え?とコンソールから視線を挙げると、すぐ横に立ってた現代音楽担当のジェウオン先生が後ろ頭をガシガシかきながら、苦笑いして、
あーもういい、いい、と手を振って、
「ほとほと無礼なやつだなあ」
足元に転がっていたデイパックからはみ出ていたサリンジャーを指差して、暗殺だけはやめとけよ。

こっちに来て入学式から1週間、韓国語はちょっと難しい話をされたらわからないような状態で、英語圏からきてる生徒は先輩にはちょっといるみたいだけど、今年はいなくて、流れで飯誘われても金がないからいけないし、話辛いから友達はいない。
英語を交えて話してくれるジェウオン先生みたいな人とだけ会話をして、授業は辞書首っ引きで、だけど、これまで完全に独学だった俺にはさいこーにおもしろい。

作曲で合格してるはずなのにダンスの授業もあって、俺は奨学生だからしょうがなく後ろの方で目立たないように踊って、トレーナーに声かけられそうになると逃げるけど、渡される音楽教材をはしからはしまで読み漁って、私設の図書館には読みたい本がやまのようにあるし、先生たちも熱心で、授業以外のことも教えてくれるし、今まで触れたことのない機材はいっぱいだし、天国だった。



喉の乾きを感じてミキシングのインジケーターから目をあげると、まわりには誰もいない。時計を見るともう午後になってて、腹もすいてる。ひとまず、無料の水でも飲みにいこうと立ち上がると、長時間の同じ姿勢にからだが固まってたのか膝がポキポキいう。
デイパックの背中側の隠しポケットに入れてある通帳と現金は、合格したから片道分だけですんだエアチケット代の残りの全財産。夏休みにはそっちに顔を見に行くと言う母親にその金がもったいないから、教材費だけはかかるしその分仕送りしてくれを頼んだから、その日まで日割りして、ホステル代を引くと、一日の食費は3,000ウオン足らずで電車賃もでない。ネットで調べたら、銭湯ってもんがあるらしいから風呂はそっちですまして、気候も暖かくなってきたし、今日も野宿で済まして節約したいところだ。

コンビニで食パンでも買ってくるかと、ウオーターサーバの紙コップを捨てて、財布とスマフォだけジャンパーのポケットに移動しておいて、デイパックを棚の隠しに押し込めて、他に誰もいないブースをカードキーでロックして、広い廊下に出るとすごい人いきれだ。

教室やスタジオで見かけた生徒の顔もあるけど、おとなもいっぱいいる、入り口の方まで人で一杯で身動きがとれない、こんなに人が一杯いるの見るの、はじめてかもしれない。オリエンテーション、って呼ばれた日にも、10人くらいしかいなかったし。

「おーい」
サンフン先生が手を振ってるのを見つけた。
「お前のことだから今日もこっちだと思ったんだよ」
人を掻き分け掻き分け、近づいていき、はようっす、ともごもご呟いて下げた頭をあげると、先生の近くにアカデミーの歌手部門の二年先輩のナヨンさんが体より大きい花束をもって緊張した面持ちで立っている。いつもスタジオで最前列で踊ってて、北米オーディションで来たとかで、あんたニューヨークから来たの、って向こうから声をかけてくれた、たまに話せる唯一の生徒だ。
「変な顔してどうしたんですか」
「変な顔って何よ、」
こちらをちらりとも見ないまま、
「今日、化粧濃くないですか?」
「うるさいんだよ、あっちいけ」
しっしっと言われて、あきれた顔をしているサンフン先生に
「で、なんですか、これ」
「…やっぱり、わかってなかったのか」
「なんかあるんですか」
「ユノが帰ってくるんだ」
黄色い声が入り口の方であがった。
「すごい」
ユノユノ、うちのトップスターだ、
「兵役終えてさ、王様のお帰りだよ」

ああ、今日がその日だったのか。










つづきはこちら→#2
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