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5…Momo in the rye #3 (王ロバ2 teftef様)

「ユノさん、起きてください、着きました」
新しい若いマネージャーが、遠慮がちに肩をゆすってくるのに、震えて、急激に覚醒する。一瞬兵舎のあの固いベッドを思い出して、多分、夢を見ていた、どこか高いところから落ちる夢。嗅ぎ馴れたシートの革の匂いに気づいて、俺はこわばらせた体を弛緩させる。動悸がひどい。

そうだ、戻ってきた。

バラエティの収録のあと、芸能活動復活を喜んでくれた司会のホドンさんが中心になって開いてくれた宴席で(二年たっても俺の番組が終わってなかったことに乾杯、と叫んでいたのは彼流の照れ隠しだ)したたか酔った俺を心配するマネージャーにミラー越しに大丈夫と手を振って、事務所のライトバンからふらふらと自宅マンションの駐車場のコンクリートに降り立ち、足早にエレベータホールにむかう。

帰ってきた日の翌日から怒濤のマスメディア行脚が始まり、想像よりも待っていてくれたペンは多かったようで、海外からのペンが公開収録現場に押し寄せ、発表されたドラマ製作の発表会にはお祝いの米花が、入隊直前に製作したドラマのときの記録を上回って届けられ、ニュースに一般的な話題と一緒に取り上げられた。

戻ってすぐ挨拶にいった役員会ではいつもは四角四面仏頂面の財務担当のジョンインさんがご機嫌で、株価があがったよ、ユンホ様様だななんて軽口をしてなんと答えていいか困ってとにかく頭をさげたら、ヨンミン代表に肩を抱かれて、あれでほんとうにお前の体を心配して神社にお参りにいってたんだぞ、みんなお前を待っていたんだ、下の歓迎もすごかったな、おかえり。


自宅マンションは観光地化しているらしく、軍隊イベントにまで足を運んでくださったから見覚えのある熱狂的なペンが連日連夜取り巻いていて、先週はこの駐車場まで入り込んできていたとかで、コンシェルジュがぴりぴりと神経を尖らせ、スタッフの数を増やしたとか、他の住民への配慮もあって、いよいよ引っ越さなくてはならないかもしれない。

まわりのひとに迷惑をかけていることを考えたら大きい声では言えないことなのだが、全てが、ありがたいと思った。

現役入隊はどうしてもやりたかったことだった。精一杯国家の義務を果たしたことが誇らしく、大きな怪我もせずここに戻ってこれたことは幸運だったが、不運に見舞われた同胞も存在することを思えば、生半可で無事すんでよかった、ほっとしたなどと人前で、語れるものではない。
隣に寝ていた男が訓練終了と同時に前線に向かうことを聞き、隣国との緊張は身近で、指導していた教官が国境で犠牲になったと週報で知る。なんの理由もなく突然容赦なく間引かれていく場所に繋がれること。その圧倒的な無力感は抵抗することができない夢にまだ残っている。

もしかしたら、一生残るのかもしれない。

毎日のように誘われる宴席で、軍席時代を語る先輩方の話を聞きながら、ふっと回りが遠くなり、この場所に戻ってきた自分が自分と思えない。

砂まみれ汗まみれになった行軍や、酷寒訓練、照りつける日差しの下で観客と同じ高さのコンクリートの上を走り回り、生地がクタクタになった、サイズの合わない赤い軍服を揃いで着た仲間と踊って、やけどのような日焼けに肌をぴりつかせながら、ときには風呂も入れずに大部屋で泥のような眠りをむさぼった日を思い起こす。

それでも、ステージが始まれば、スタジオに入ってカメラがスタートすれば、やはり、俺はこの仕事が好きで、ここにしか現実はなく、この感覚を共有できるのは、あの男しかいないと思う。





あっちにいる間は、数えるほどしか連絡がとれなかった。

最初の休暇はまだチャンミンは外にいて、融通がきいたから会うことができた。男同士だから、優しい言葉をかわすにも理由がいる、と思うのが俺が古いのかもしれないし、でもそういう俺を10年の付き合いで理解しているチャンミンも贈った時計を喜んでくれて、そのあとも身に付けてくれているようだ、とホジュニヒョンになんかのときに聞いた。ヒョンも人に聞いたんだそうだけど。
俺たちはそんなふうに噂に上る立場で、直接連絡を取らなくても、お互いの様子が知れる。

10年間ほとんど顔を会わせない時期のなかった俺たちに、仕事という理由がなくなると、しかも拘束の激しい立場におかれると、こんなにも顔を見れなくなるのかと思った。

会わないから、避けているわけでもない、会っても今は話し合えない不確実なことが多すぎて、本当に兄弟のようなもの、家族のようなものだから、二年間会わなくてもいいのだろうけれど、心細くなったら電話しろよ、と言ったけど、チャンミンは、はい、と笑って、冗談になって終わった。

実際、あの男がなんとなく声が聞きたくて、何てかけてくるはずもなく、そういう俺だって、仲間内に同じ名前のこがいれば、やっぱり俺は東方神起なんだなあなんて言って、その場が受けて、電話でもするかな、と思うけど、ホールのすみにある公衆電話の長蛇の列に並んで、いざ自分の順番になり、かけようとしたら横の電話で愛していると呟いている後輩に気がついて存外よく聞こえるなと思ったり、その横でチャンミンに電話を掛ける気が失せてしまい、といって、繋がりたい恋人も今俺にはいなくて、やっぱり親にかけたり、ホジュニヒョンにかけたり。

そんな電話も、世間から俺の存在が忘れられないようにと俺のことをSNSにあげてくれる人のところにネットの攻撃がいくと言う話を聞くとなるべく控えて、やっぱり義務に集中するしかない時期だったのだ。

チャンミンの義務警察活動は、俺の軍楽隊活動をペンが追っかけてくれていたように、動画や画像がよくSNSに上がっていたから、休暇のときなどはあずけていたスマフォが手元に戻ってくると、実はよく見ていた。あの内気な、恥かしがりやの男がよくがんばったな、と思ったし、俺自身も経験したからわかるが、素朴なステージをよくここまで演出した、彼のタレント性がずばぬけているから成り立ったのだろうと思うパフォーマンスもあり、戻ってきてからのアイデアも浮かんだ。
もちろん、キグルミは着ないと思うが。いや、魚のぬいぐるみをきた男だから、本人的には、うちの会社的にはありなのか。入隊直前のチャンミンはつきぬけていた。俺にはできないことをやれるやつで、内弁慶の看板はもういらないなと演出家のジェウオンさんと笑ったこともあったっけ。

そんな思考が、俺の精神を健康にしてくれていたことが今はわかる。

後半、軍楽隊の仕事が起動に乗ってからは、仕事に忙殺されていたときにはあり得なかったほど、プライベートの友達と小旅行にいくことができた。大学に席はおいたものの、大学生活の経験はほとんどなかった俺にはふしぎなモラトリアムだった。こんな人生もあるんだな、と思った。
兵役が終わって、仕事に戻ったとき、しばらくはまたこんな時間は持てないのかもしれないけど、年を重ねて仕事が落ち着いたら、また。
そんなときも、チャンミンを思い出したけど、誘ってもあいつは絶対出てこないことはわかっていて、
事務所から最近作ったレストランににぎやかしにこい、と言われて、チャンミンと久しぶりに会った。

表情が暗かった気がして、気になって、まわりにひとがいる場では言えないけど、カトクで、その夜だいじょうぶか?と聞いて、なんの話ですか?と返されて、そりゃそうかと思ったり。

後輩を会社のレストランにつれていって、やっぱり気になってチャンミンに声をかけたら、やつはずいぶん無理してでてきたようだったけど、こないだよりは表情が明るくなってからほっとして、最後の休暇あいつが大好きなパンを大量に買って面会にいった。
面会は個室もありますが、と言われて、遠慮して、食堂代わりにも使われていると言うピロティで紙袋を広げて一緒に食べた。
やつはちょっと待ってて、と言いおいて、無料だと言うコーヒーの紙コップを二つ持って戻ってきて、おそろしいスピードでばくばくパンを食べはじめ、おい喉つまらせるなよ、と声をかけても黙ったまま食べ続ける。照れてるのか、目を伏せて、こっちを見ない。

途中で、食べないの?と聞かれたけど、
ああ俺は車んなかで食べたから、
じゃあ全部食べていいの?
いいよ、たべろ、たべろ。

6個めが咀嚼され人心地ついたらしいタイミングで、ようやくチャンミンの口がモゾモゾ動きだし、なにか言うかな、と待っていたら、俺の背後にチャンミンが視線をやって、あ、と言うから振り返ると、チャンミンの同僚らしい子達が10人くらい敬礼して、サインをお願いしたいのですが、と言われて、はい、パンも食べる?と言うと、ありがとうございます!と叫んで、彼らの食欲はすごくて、あっという間に全部なくなった。

お前に会った連中が、会いたがってたぞ、と言うと、
あ、レストランの時の?
そう、サインもらい忘れた、て。

まあでも、遠いからな、それにもう時間もあまりないし、と笑ったのを聞いてるのか聞いてないのかだったのに、
その次の週には、チャンミンがうちの部隊に、面会に来てくれた。



そのときは、いろんな話をした。

関を切ったかのように、チャンミンが話してくれて、周りで面会している後輩がこっちを見てるのがわかってたけど、大声で笑って、笑いあって、楽しかった。

最初の訓練はやばかったです、直前に体鍛えてたからなんとか乗り越えられました、ていうか、特級兵士って、ユノ、すごすぎないですか?もう絶対、ケンカ出来ないじゃないですか。
あれは射撃の方だよ、
余計ヤバいですよ、
ずいぶん体絞りましたね、痩せた気がする、
うん、ちょっとけがしてさ、
ああ、とチャンミンが心配そうな顔をして、

懐かしい。
俺がケガすると、いつもこんな顔でチャンミンが見つめてきたな。

でももうすぐだから、

ちょうどいいから絞ったんだ。筋肉も結構落としたんだぞ、と腕を叩くと、
そうですね、とチャンミンが手を伸ばしてきて肩を触って、すぐ手を離して、ほんとだ、と呟く。

な、ここなら、うまいもんの誘惑も少ないからさ、と言うと、チャンミンがあはは、と笑って、
そう、もうすぐですもんね。






ほろ酔いの思考はとりとめなく広がって、こないだ会った、チャンミンそっくりと噂だった後輩を思い出した。

もともとは俺たちと同じようにタレントとして所属していたのが演出や振り付けの側にシフトしていたサンフニヒョンやジェウオニヒョンがスターライトの講師を始めたはこの一年くらいの話らしい。面会に来てくれたときに、おまえの相棒にそっくりで面白いやつが入ってくるんだ、オーディションで最初に顔見たときは笑っちゃったよ、音楽オタクで、ってオタクは同じか、って楽しそうで、へえ会ってみたいな、と話してた。

確かに似てたけど、17歳だって、今の子のほうがあかぬけてる、なんて言ったら、チャンドラに怒られそうだ。
花束をすごい勢いで押し付けてきて、おかえりなさい、と叫んだ声が耳がきーんとなるほどでかくて、目がでかいから、睨みつけられてるみたいで、外見は似てても、中身はどうかな、話してみたいなと思った。

次はいつスターライトに顔を出せるか、明日マネヒョンにスケジュールを確認しよう、何て思いながら、
エレベータホールにつながる自動ドアにはいると、フロントで、人が集まってどうやらちょっと揉めているらしいところに出くわした。
いつもはこんな時間帯なら一人くらいしかスタッフはいないのに、警備会社の制服を着た男も詰めかけて、若そうな、黒いニット帽をかぶった背の高い男の肩をつかんで、こっちに押し出してくる。
「出てけ、ほら早く」
そのこはほとんど抵抗していないようなのに、乱暴にふるまうそのスタッフが、先日うちのペンにも居丈高に怒鳴った男なことに気づいて、思わず声をかけてしまった。
俺のペンかもしれないし。

「どうしたんですか」
「あ、ユノさん、すいません」
とスタッフがうってかわった丁寧な声音で返してきて、
その子はこっちを見て立ちすくみ、
「こら、早く歩け」とこづかれて、前につんのめって、俺の足元に倒れ込み、しょっていたデイパックの口が開いていたらしく頭の上を通り越して目の前にシルバーのノーパソとノート、歯ブラシとシャンプーと小銭、中身全部巻き散らかされて、
あれ、このこ、
「だいじょうぶ?」
としゃがんで抱え起こそうとすると、飛び上がって、荷物をよりいっそう撒き散らしながら、立ち上がり、立ち上がると固まって、
顔を覗き込むと、
「やっぱり」
モモ。

ここの住人じゃないんですよ、すぐ追い出しますから、と取り繕うように話してくるスタッフに
「この子知り合いだから」とかばってしまったのは、酔った勢いでしかなかった。









つづきはこちら→#4
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